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新年おめでとうございます。

昨年同様、本年も宜しくお願い申し上げます。


はい、Q太郎でございます。

年明けて既に三日目。
ご挨拶が遅れまして申し訳ありませんです。
今年も、地球に脳内を持ってかれるぅ…な一年になると思います。

昨年終盤どうにも更新が滞りがちになり、もうどうするよ状態でありましたが、今年こそは少しはマシになるよう精進したいと思っております。

…で…、

新年ネタでSSを…と思ったのですが、出来あがったブツが何ともまた不景気な話で、正月っからこんな薄暗い話はどうよ……と、ちょびっと悩みましたです。

でも、載せちゃった。

え~と、ホントまるっきりお目出度さとは無縁なブツですので、大丈夫と仰ってくださる方だけで……。

お目汚しの駄ブツではありますが、ご笑覧下さいませ。







「おめでとう」

 ブルーの唇がそっと僕の頬に触れた。 

「君にとって善き一年でありますように」

 柔かな祈りの言葉が、優しい眼差しと共に僕に向けられる。
 途端に僕は泣きたくなる。
 何故だろう。
 添えられた指先は冷たくて、けれど唇は温かくて、その温度差が僕を堪らなくさせる。

「どうしたんだい?ジョミー」

 ベッドに並んで座る僕の、俯いた顔を覗きこむブルーの髪がさらさらと音をたてる。
 優しい声、優しい瞳。貴方は優し過ぎる。
 それが切ない。

「ジョミー?」

 ブルーを抱き締める。小さな子供のように抱きつき抱き締める僕を、苦しいよと微笑いながらブルーは抱き返してくれた。
 何故だろう。何故こんなに悲しいのだろう。
 苦しいくらいに、痛いくらいに、悲しい。

 ブルーの掌が僕の背中をあやすように軽く叩く。 

「大丈夫。僕は生きている。君が生命をくれたから」

「約束を…ブルー…。これからも二人で新年を迎えよう」

 抱き締める肩に彼は顔をのせて唇を僕の耳元に寄せて、約束するよと小さく頷いてくれた。
 
 僕は抱き締める腕にもう少しだけ力を入れて、どうかこの人の上に慈しみと幸いの雨だけが優しく降りますようにと祈らずにはいられなかった。
 叶わぬ願いなのかもしれない。
 それでも、祈らずにはいられなかった。

 それしか出来なかった……。




「おめでとう、ブルー」

 淡く青い照明の中で眠り続けるブルーに、日付が変わり新しい年が始まったのだと僕はそっと教えた。

「貴方にとって善き一年でありますように」

 ずっと昔、まだソルジャースーツもマントも身に着けていなかった頃、二人で新年を迎えようとここに僕を呼んで、貴方はこう言ってくれた。
 僕は今、同じ祈りを貴方に捧げる。

 眠る貴方の頬は白磁の滑らかさで、長い睫毛がその頬に影を落とす。僕を映してくれた赤い瞳が閉じられてから、この日を迎えるのは何度目になるだろう。

 それでも、貴方は約束を守ってくれているね……。

 ベッドの端にそっと座り上掛けの中に手を入れ、冷たいブルーの手に自分の掌を重ねる。僕の熱を貴方は感じているだろうか。

 ねぇブルー。貴方はどんな夢を見ているのだろう。
 その夢の中に僕はいるの?
 貴方は笑っている?
 独りで彷徨ってなんかいないよね。
 寂しく…ない?

 ソルジャーという名は何て重いのだろうね。
 皆の心を束ね導く事の、常に頭(こうべ)を上げて道なき道を示す事を求められる苦しさ難しさを、僕は漸く知ったよ。
 この名を戴くことの孤独を、重圧を……。

 ねぇ、ブルー。僕達はどこへ向かえばいいのだろう。僕は何を護ればいいのだろう。

 ブルー、貴方の声が聞きたい……。

 自分の弱音に呆れながら僕は嗤って、もう行くねとブルーに声を掛ける。そうして立ち上がる為に絡めた指を外そうとした僕の掌の中でブルーの指が微かに動いた。

「ブ……ルー…?」

 僕の声に応える様にブルーの指がまた動く。彼の顔を見れば長い睫毛が僅かに震えて揺れてゆっくりと瞼が上がっていく。

 薄く目を開いては閉じ、また開けては閉じる。意識の浮上を確かめる様に長い瞬きを二度三度と繰り返し、ブルーは小さく息を吐くと視線を僕に向けた。

「………ョミ…」

 上手く出せない声に少し眉を顰める彼の意識は、赤い瞳は、僕を確かに捉えている。

 ああ、何て事をしてしまったのだろう。つまらない呼び掛けでブルーの眠りを妨げてしまった。

(…ジョミー…)

 動揺する僕の心を察した様にブルーは口元に笑みを作る。大丈夫と彼の思念が僕を包む。

「ごめん、起こして。貴方に新年のおめでとうを言いに来ただけだったんだ」

(…そう。おめでとうジョミー…。君に幸い溢れる一年でありますように……)

 ブルーの言葉が僕を満たしていく。貴方の心が僕を抱き締めてくれる。

 上掛けの中で絡めたブルーの細い指をもう一度握り締めて、そろそろ行くよと立ち上がる僕の指をブルーは掴んで離さない。

「…ブルー?」

(今日は…一緒に……ね。寂しいだろう…?)

「……」

 顔が赤くなるのが判り、慌てて子供じゃないよと言い掛ける僕に、ブルーは小さく頭を振って、僕がね寂しいんだよ…と微笑う。

 違うだろうブルー。寂しさに震えるのは僕の方なのに、貴方はそれを自分のものとして僕に寄り添おうとする。

(……ね、ジョ…ミー…)

 思念で語る言葉も途切れがちになって、ブルーの意識がまた深い深い場所へ戻っていこうとしているのが判る。このほんの一瞬の覚醒でさえ今の貴方にとって決して易しい事ではない筈なのに。
 貴方は僕のこえを聞いてくれたんだね……。

 ブルーは閉じようとする瞼を押し上げて、早く…と僕を促す。
 僕は、うんと小さく頷いてベッドに片膝をつき彼の身体の下に両腕を差し入れ、少しだけ彼を横にずらした。

 軽い。何て軽いんだ貴方は。
 貴方はこの華奢な身体の中に一体どれ程の重い運命を抱えて生きてきたのだろう。その小さな背中にミュウの全てを背負って、たった独り歩き続けた貴方。
 両の手足を縛られ、目を覆い耳を塞ぎたくなる程に嬲られ踏み躙られながら、それでも心は自由なのだと微笑って未来(さき)だけを見つめてきた貴方が、この腕の中、力なく身を預けている。
 もっと早く生まれて来たかった。もっと早く貴方の側に辿り着きたかった。
 そうすれば……、
 そうすれば、もっと……。 


 込み上げる熱い塊を咽喉の奥に感じながら、僕はブルーに悟られないようにと心に精一杯のガードを施し、アンダーだけになると、そっと上掛けを捲り彼の横に身体を滑りこませた。
 フワリとブルーの匂いが僕を包む。

「…ジョ……ミ……自分を……し…んじ…て……」

 眠りの世界へ落ちて行こうとしているブルーが、声で僕に語り掛ける。
 もういいんだ、ブルー。貴方が僕の声に応えてくれた。それだけでもう十分だよ。

「ブルー、もう眠って…側にいるから」

「…ん……お…やす…みの……キ…スを……ジョ…ミ…ィ……」

 言葉の最後は吐息に溶けて、ブルーはゆっくりと瞼を閉じる。

「…あげるよブルー。おやすみのキス」

 彼の瞼に口付ける。彼の頬に、額に。

 そして僕の想いの全てを込めて唇に……。


「ブルー……」

 声が震える。涙が零れそうになる。

 深い深い眠りの底に向かうブルーに、もう僕の声は聞こえてはいないだろう。

 僕は囁く。

 ブルー、僕の心を貴方の中に潜ませて。
 貴方が夢に脅える事があれば、僕が護ってあげるから。
 貴方が過去の記憶の闇に苦しむ事があれば、僕がその闇を払ってあげる。
 貴方の見る夢がいつも穏やかで優しいものであるように、心の奥の深い深い場所に僕をそっと忍ばせていて。
 貴方が僕を守り導いてくれたように、僕も貴方を護りたい。


 少し身体を起して指先に小さな光の球をつくる。
 これが貴方を護る僕の心。
 金色に光る指先を彼の軽く閉じられた唇にそっと押し当てれば、薄紅色の唇が淡く金色に染まる。
 その唇に僕はもう一度だけ唇を重ねた。

 貴方の見る夢が、いつも穏やかで優しいものでありますように。

 いつか貴方の見る優しい夢が現実となり、儚い寂しげな微笑みが貴方の頬から消えますように。


 僕は、貴方を護るよ。

 貴方の願いと祈りの果てを、僕は目指そう。


 零れる涙がブルーの頬を濡らす。


 何故だろう、涙が止まらなかった。




 

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